
5. YAGレーザ
5.1 YAG結晶
Nd3+: YAGレーザ(1064nm, 1.06μm, 1.3μm)は実用されている代表的な個体レーザであり, 単にYAGレーザと呼ばれることが多い。YAG(yittrium aluminium garnet, Y3Al5O12)は, 酸化イットリウムと酸化アルミニウムを3:5の比率で混合し, 反応させ, 結晶化して作成される。
表5.1.1 YAG結晶の性質
化学式 | Y3Al5O12 |
結晶構造 | 立方晶 |
融点 | 1950度C |
格子定数 | 12.01オングストローム |
密度 | 4.56g/cm3 |
モース硬度 | 8.5 |
屈折率 | 1.82(at 1.0μm) |
熱伝導率 | 0.13W/cm・K |
熱膨張係数 | 8.3 x10(-6)/度C |
表5.1.1に示すように, YAGレーザ材料として良好な性質を持っている。酸化物であること, 1950度Cの融点を持っているので非常に安定であり, またモース硬度で8.5と硬くて強いので取扱が容易である。特にこの結晶がレーザ用母結晶として優れているのは, 可視光から赤外光にわたって光学的損失が非常に小さいこと, 熱伝導率が0.13W/cm・Kとガラスよりも1桁程度良いことなどがある。最近ではEr:YAGレーザ(2.94μm), Cr, Tm, Ho:YAGレーザ(2.08μm)といった2~3μm域の固体レーザが開発され, 医療用, 計測用に注目されている。
5.3 YAGレーザの構造
5.3.1 YAGロッドレーザ
YAGレーザの基本的な構成を図5.3.1に示す。励起光源として, パルス励起には, XeまたはKrフラッシュランプ, 連続励起にはKrアークランプが主に使用される。
図5.3.1 YAGレーザ発振器の基本構成
集光器はYAGロッドに効率よく光エネルギーを与えるために重要な役割をもっている。図5.3.2は楕円形の断面図である。(a)単一楕円筒で励起ランプ一本のときに使用される。また(b)は二重楕円筒でランプ2本のときに使用される。
図5.3.2 楕円筒集光器
図5.3.3はYAGレーザ発振器の基本的な構造例を示す。励起ランプおよびYAGロッドの冷却が重要であり, 通常水冷である。
図5.3.3 YAGレーザ発振器の基本構造
(5.3 YAGレーザの構造つづき)
5.3.4 LD励起YAGレーザ
出力10W級の半導体レーザが得られるようになるとともに, 小型で効率のよい励起光源として注目されている。図5.3.6は端面励起方式の例を示す。LD側のロッド面には, 励起用の810nmが透過するようなARコート, YAGレーザの1064μmには共振器として反射率の高いHRコートとなるような蒸着膜がつけられている。また, 図5.3.7はスラブ結晶を用いた側面励起方式の例である。特に大出力LD励起YAGレーザのシステム例を図5.3.8, 5.3.9に示す。また, 各種のLD励起YAGレーザの例を表5.3.1に示す。
図5.3.6 LD励起YAGレーザ発振器(端面励起)
図5.3.7 LD励起YAGレーザ(側面励起)(NEC)
図5.3.8 QCW 3.2kW LD励起Nd:YAGレーザ
図5.3.9 平均出力1kW LD励起固体レーザシステム(TRP計画, レーザプラズマX線源用) 4)
表5.3.1 LD励起YAGレーザ 2)
レーザ材料 | レーザ発振波長(nm) | 蛍光寿命(ms) | 励起用LD | |
波長(nm) | 種類 | |||
Nd:YAG |
946, 1064, |
0.23 | 807 +/-2 | AlGaAs |
Ho:YAG | 2098 | 4 | 780-810 | AlGaAs |
Tm, Ho:YAG | 2091 | 8 | 780-787 | AlGaAs |
Er:YAG | 2937 | 0.1 | 960 | InGaAs |
Tm:YAG | 2021 | 12 | 780-785 | AlGaAs |
Yb:YAG | 1031 | 1.08 | 942 +/-9 | InGaAs |
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引用文献: レーザー安全スクール, レーザーの基礎
(財)光産業技術振興会 通商産業省
著述 東京工業大学 田幸 敏治 防衛大学校 安岡 義純
参考文献
1) 田幸 敏治ほか共著: レーザフォトニクス(共立出版, 1993)
2) 図解デバイス辞典(オプトロニクス, 1996
3) 鷲尾邦彦: レーザ研究 24-3(1996) 316
4) 有沢孝ほか: レーザ研究 24-3(1996) 324
5) 菅博文ほか: レーザ研究 24-3(1996) 334
6) 丸文カタログ: Laserline社 LDL/LDFシリーズ
7) 阿部信行: レーザ研究 25-7(2000) 34
8) 中村修二: 光学 24-11(1995) 673
9) 中村修二: レーザ研究 25-7(1997) 498
10) S.Nakamura, etal: Jpn J. Appl, Phys 35(1996) L74
11) S.Nakamura, etal: Appl, Phys Lett 69(1996) L4056
12) S.Nakamura, etal: Jpn J. Appl, Phys 38(1999) L226
13) 応用物理学会編: 応用物理データブック(1994) 507
14) T.Taro: Proc. International Laser Safety Conf. '97-321-330
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